『バイオ研究』にはどのような能力が必要なのか?

バイオ・生命科学への価値観

こんにちは。

薬学系のバイオ研究に日々没頭しているさんごろうです。

今日は、バイオ研究に必要な能力についての紹介となります。

以前、考え方や心理的な観点で同様の記事を紹介してますが、

今回はバイオ研究に必要な具体的な個人の能力値についての記事となります。

当記事では、

「バイオ研究で成功していくために自分の能力を上げていきたい!」

「今の自分に不足している能力はどれだろうか?」

「どうやったら不足している能力を上げることができるのだろうか?」

と思っているあなたに向けて、

その現状を変えるための方法を紹介する内容にしていきたいなと思っています。

こうした手法によって、皆さんの手助けにつながっていくことになれば幸いです。

バイオ研究に必要な能力

3年間バイオ研究に携わってきて感じる、バイオ研究に必要な能力は以下の5つだと思っています。

バイオ研究に必要な能力
  • 英語力
  • 論理的思考力
  • 好奇心・感情的思考力
  • コミュニケーション能力
  • 文章作成力・プレゼン能力

最初から順番に説明していきますね。

英語力

バイオ研究に限らず、広く研究において言えることですが、英語力は圧倒的に大切です

特に、リーディング力はきわめて大切。

なぜなら、バイオ研究では英語論文に書いている内容が情報元となっているからです。

そのため、そもそも英語ができないと話にならないのです。

しかも、その英語論文には難解なサイエンスがぎっしりと詰め込まれているので、

英語自体につまずいていては自分の研究を広げていくことが難しくなってしまいます。

では、「どうやったらバイオ研究に通用する英語を鍛えられるの?」

と思う方は多いのではないでしょうか?

答えは、3つあると思っています。

バイオ研究における英語力の鍛え方

・TOEIC 700点レベルの英語力をつける

・日本語の内容・サイエンスを理解する

・英文を日本語化・可視化してみる

まず最初の『TOEIC 700点レベルの英語力をつける』ことに関しては、

研究者を目指すようなレベルの方々にはそんなに大変なことではないと思っています。

なぜなら、このレベルの英語では大学受験レベルの英語力で十分対応できるからです。

まだここまでのレベルに達していないという人や、ここまでの英語力の自信がないという方は、

TOEICが出版している公式問題集を参照してみると良いと思います。

長文問題でも、文法問題でも、1つ1つの文章のレベルは思ったより簡単だと

お気づきになると思います。

あとは、長文などに慣れているかどうかが問題となるので、

問題集を何周かこなしていくことで、英語自体に慣れていくことが大切なのではないかなと感じます。

余談ですが、実験医学の英語学習もオススメです。

Vol.6 節の使い方をマスターしよう! No.1 関係代名詞・関係副詞の使い方のポイントはなに?|超基本の英文法-英語の語順に親しむ|実験医学online:羊土社 - 羊土社

次に、『日本語の内容・サイエンスを理解する』に関してです。

英文の1つ1つの単語は理解できても、その文章が示す内容を理解できなければ

バイオ研究での英文を理解したことにはなりません。

例えば、

『Recently, it was shown that imaginal disc damage leads to the upregulation of circulating metabolites produced by the fat body, which are necessary for proper disc repair, highlighting the importance of interorgan communication in the context of regeneration.』

という英文があったとします。

この英文が示す1個1個の単語を理解したとしても、文章全体が示す内容を理解できなければ

英文を理解できたことにはなりません。

この英文を理解するには。

『再生現象の研究分野の1つにショウジョウバエのimaginal discという組織が存在する』

『近年様々な生命現象において組織間相互作用がキーワードになっている』

というサイエンス自体への理解がないと厳しいと思います。

そのため、バイオ研究での英文を理解するためには日本語やサイエンスを理解することが重要です。

最後に、『英文を日本語化・可視化してみる』という内容について紹介します。

英語論文を読んでいると、ある程度の段階まで内容を理解したが、

途中から急に「わけがわかんない!」と嘆く場面が多く出てくると思います。

そんな状況を回避するには、英文をShaperやDeepLなどを用いて日本語化し、wordやパワポ、

もしくはGraphical Abstractとしてイラストや絵にしてまとめてみることをお勧めします。

そうすることで、サイエンス独特の論理構築や難解な言い回しを

母国語や視覚的情報で理解することにつながっていきます。

このような対策によって、

納得のいく理解や暗黙知のレベルまで知識が定着していくことだと思います。

地道な経験を積み重ねていくことで

英文から直接内容を理解していくことにつながっていくでしょう。

論理的思考力

これも研究全般に言えることですが、論理的思考力は極めて大切です

・Controlとサンプルデータのこの部分からでは、この理論は少し飛躍しているではないのか?

・再生に因子Aが必要ならば、因子Aを加えることで再生できるようになることを示せばいいのでは?

・因子Aは、とある事象では機能Xを持っていたので、異なる事象でも機能Xを持っているのではないのか?

と言った考えは、研究を進めていくための基本的な思考方法です。

理解するのはそこまで難しいことではありませんが、

この発想に至るには慣れと経験が必要になります

例えば、自分の研究に関連しない論文を読んだとしましょう。

その論文に記載されていた培養細胞の操作が、実は実際の生体にも応用できたとします。

しかし、この応用できるという発想ができるようになるには、

論文から自分の研究に活用できるものを引っ張ってくるという習慣が必要になると思います。

sangorou
sangorou

本題ではありませんが、培養細胞を用いた実験のことを『in vitro』、

実際の生体を用いた実験のことを『in vivo』といいます。

一般には、『in vitro』の実験は結果が明瞭になりやすく、

in vivo』の実験は結果が不明瞭になりやすい印象です。

では、どうしたら論理的思考を磨いていけるのでしょうか?

それは、ひたすらアウトプットを繰り返すことだと思います。

例えば、

論理的思考を磨くアウトプット

・進捗報告の場で質問を活発に行う

・勉強会などで論文を人に紹介する場を増やす

・直属の教員とのディスカッションを積極的に行う

を繰り返していくことにより、自然と論理的思考力が身についていくはずです。

好奇心・感情的思考力

論理的思考力とよく対比して考えられる思考ですが、

好奇心や感情的思考力もバイオ研究では大切な要素だと思います。

なぜなら、バイオ研究では早朝から夜遅くまで粘るための体力が必要になるからです。

例えば、論理的思考によってこの実験をしたほうがいいと考え実験を実行したとします。

しかし、バイオ研究の場合では大抵途中でつまづいたり、良い結果につながらないことや、

論理的に説明できないような事態に直面します。

そのような事態になると、実験を進めるペースを上げて多くのデータを得るように動くのが通常です。

そのため、早朝から深夜まで実験を行う日常になっていきます。

そんな時に、研究を継続して進めていけるモチベーションになるのが

好奇心や感情的思考力だからです。

「良い結果を出すことができなかった… もう限界。」

となりかけても、

「よくわからないけど、この実験でここの条件を変えてみれば、

もしかしたら結果が変わり研究が面白い方向に進んでいきそうだなあ」

という好奇心や、

「なにくそ!こんなところでつまずいてる場合じゃない!何としても結果を出したい。」

という感情的な考え方も研究を継続していくには重要な要素となります。

反面、この好奇心や感情的思考力には注意する点も存在します。

好奇心を優先して行動することは危険です。

例えば、「この実験は面白そう」「あの実験も面白そう」と言って、

仮説や目的意識が不足した中で様々な実験に取り組もうとする姿勢は

効率の悪い実験を行っていくことにつながってしまいます。

また、感情的思考力が強すぎてもドツボにはまってしまいかねません。

「なんとしてもこの実験は成功させたい。」と思って行った実験が、

幾度も幾度も失敗に陥ってしまった場合、ズタボロに精神をやられてしまうことになります。

成功体験が少ない段階でこの状態に陥ると、誰しも精神を病んでいく可能性が高くなります。

そのため、論理的思考力と好奇心・感情的思考力の程よいバランスが、

バイオ研究を進めていく上では大切になっていくのではないのでしょうか?

コミュニケーション能力

研究者として成功したいなら、コミュニケーション能力を存分に発揮すべし。

なぜなら、コミュニケーション能力に優れていると、

研究をスムーズに進めていくことができるからです。

逆に、周囲とのコミュニケーションをうまく取っていかないと

研究の泥沼にはまってしまう可能性が高いです。

sangoro
sangoro

こんなことを言う私は、実は後者の泥沼にはまった側だったんですよね…

さて、バイオ研究を進めていく方法にはどういったものがあるのでしょうか?

バイオ研究を進めていく方法
  1. 論文を読み、他人の実験手法を参考にする
  2. 学んだ知識から、仮説を立てて、次の一手を決めていく
  3. 上司や同期、後輩にアドバイスをもらい、実験を進める
  4. 外部の専門家に相談し、実験サポートをしていただく

ざっと考えて、こういったものが考えられます。

これらのうち、普通の人にとって最も効率的な方法はどれでしょうか?

みなさんはおわかりかもしれませんが、『3』が圧倒的に効率がいいです。

知識や経験、実験のコツを理解している人と協力して研究を進めていく方が、

自分一人で一歩ずつ進んで行くよりも、適切な方向にいち早くたどり着くことができます。

そしてそうすることで、あらぬ方向に進んで頓挫していく可能性も排除することができます。

例えば、私にはこのようなことがありました。

遺伝子Xの増幅を試みていた私は、その遺伝子Xを生物のゲノムから抽出することに苦戦していました。

幾度トライしてもダメ。条件を変更してもダメ。

という状況です。

そこで、思い切って遺伝子操作をよく行っている友人に相談をしてみました。

すると、自分が変えていた条件とは異なる要素を変更すればいいのではないかと指摘されました。

当時の自分にはそのような考えは頭の片隅にもなく、藁をもすがる思いで実行してみました。

するとなんということか、遺伝子Xを増幅させることに成功したのです。

また、こんなこともありました。

大事な生物サンプルを顕微鏡で撮影して、ポジティブなデータが得られなかったときのことです。

私はショウジョウバエを扱った実験をしていて、

wing discという小さな組織いん傷害を与えた後に集積する異物を測定していました。

その異物の集積が、とある遺伝子の阻害によって変動するのかを観察しようとしていましたが、

その差を検出することができませんでした。

当時は諦めの感情に浸り、これ以上何も解析できる余地はないと絶望を感じていました。

そして、そのデータについて上司と相談した際に、こんな言葉が飛んできました。

「このデータ、俺には有意差がないんじゃなくて、

別の見方で観察すると微妙に有意差があるんじゃないか?」

この言葉を聞いた時は衝撃でした。

そして、言われた通りの観点で解析すると、

確かにポジティブなデータだったということが判明したのです。

このように、自分はこうだと思い込んでいても

別の切り口ではぜんぜん違う結果に生まれ変わることがあるのです。

研究とは世界でまだ誰も知らない未知の現象を解明するお仕事です。

そしてその性質から、教科書的なものの存在はなく、失敗続きの茨の道を歩むことになります。

そんな茨の道を乗り越えていくには、すでにその乗り越え方らしき方法を知っている人の歩き方を

参考にすることがバイオ研究を進めていく上での要になります。

そうした意味で、コミュニケーション能力はとても重要な力になります。

文章作成力・プレゼン能力

バイオ研究では自らが実験をして得られたデータを、いかにわかりやすく、

どれだけ有意義な成果であるのかを説明する能力が問われてきます。

それは研究室内でもそうですし、外部の研究者に対しては特にその能力は重要です。

具体的には、どのような形で成果を説明していくのでしょうか?

その形は主に2つあると思います。

バイオ研究で求められる説明の場面

・研究室内での進捗報告

・学会などの外部への報告

前者の研究室内での進捗報告は、日々の実験結果の共有と、

得られた実験データを組み立ててストーリーを作り上げる練習の2種類に分類されます。

日々の実験結果の共有では、

・自分がどういう目的で実験を行ったのか

・どんな手技で実験をしたのか

・結果はどういったものだったのか

・その結果をどう解釈するのか

・どういった仮説が立てられるのか

・今後どうその検証を進めていくのか

について文字化したりプレゼンしたりすることによって、

メンバーから実験のアドバイスを伺うことを目指しています。

そのため、自分が行ってきた実験や考えについてを端的にまとめていく文章力が問われます。

また、得られたデータを組み立てて研究のストーリーを作り上げる練習では、

プレゼン能力が問われます。

このストーリーの作成では以下の要素がポイントになるのではないかと思っています。

・そもそも自分が行っている研究が世の中に求められている課題につながる結果となることをアピールする

・研究領域の何が知られていて、どこが知られていないかを明確にする

・どこを知りたいのかという問いを立てる

・そのために用いる実験手法を説明する

・実際に行った実験とプレゼンで発表する順序は大きく異なることが普通

・ネガティブな結果は基本的には示さない

・結果から生じてくる仮説を示す

・仮説を検証するための実験計画を示す

これらの要素を自信を持って説明し、

質疑にも答えられるように準備を行うプレゼン能力が必要になってきます。

そして、学会などの外部への報告ではさらにハードルが上がります。

研究室内での発表以上に、

・ネガティブな結果はなるべく出さない

・根幹となるデータのみでストーリーを組み立てる

・余計な情報を載せないスライドデザイン

の3つの要素が大切です。

なぜなら、各業界の専門家が集まる学会では、

ネガティブな情報や本筋ではないところでの議論を起こしてしまうと

主張したい部分に聴衆が集中できず、余計な情報に振り回されてしまいます

そして発表者本人への信頼の揺らぎにつながりかねません。

一度信頼が揺らぐと、取り返すのはなかなかに難しくなってしまいます。

そのため、研究者としての人生を歩んでいく上では、

ネガティブなデータや余計な情報を載せずに本筋に焦点を当ててアピールすることが大切なのです。

まとめ

いかがでしたでしょうか?

今記事では、バイオ研究に必要な能力として主に5つをピックアップしてきました。

バイオ研究に必要な能力
  • 英語力
  • 論理的思考力
  • 好奇心・感情的思考力
  • コミュニケーション能力
  • 文章作成力・プレゼン能力

これらすべての要素を完璧に身につけることは至難の技です。

しかし、何か1つでもこれは得意という部分を作ると、バイオ研究を進めやすくなると感じています。

研究に携わりたいと思っているみなさんには、

ぜひご自身の能力を上げていただくことを期待しています。

それではまたっ!

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